SSブログ

4月30日(1) バスティア Bastia [Corsica]


 
寝たのが早かったからか、朝6時半頃に目を覚ます。昨夜は暗くてよくわからなかったが、やはり泊まっているホテルを含むこのあたりの建物は、船上から見た「スラム街」そのものであった。古く、特に道に面していない側は外壁等の手入れも決して行き届いているとは言えない。古いと言っても、人々が都市に集住しはじめた19世紀から20世紀初頭のもののようである。中世以来の建造物のように、EUが文化財として美しく修復してくれる事もない。そもそも辺境の貧しかった島のこと、パリとは違って最初からいい建材で建てられている訳でもなさそうだ。アメリカの東海岸から中西部の都市でも、1世紀程前、急増する労働者向けに作り急いだような煉瓦作りの建物が、いま雁首を並べなすすべもなく荒んでいるのが目につくことがある。日本では、これまで木造のそれが多かったがために、住宅はスクラップ&ビルドの対象だった。しかし、もはや多くの建物はコンクリートになっている。作ってしまった都市をどうするのか、これまでとは違う試みが要求されそうである。

さてここバスティアは、ジェノバ人がコルシカを治めていた中世より18世紀までの時代、すでにコルシカの中心都市として栄えていた町である。背後の切り立った山が小さな湾を抱きながら海へと落ち込むその地形は、天然の良港かつ要塞として通商の拠点を築くに好条件であったに違いない(もっともコルシカはどこでも、山がそのまま海に落ち込んでいるようだったが)。それに、ジェノバをはじめイタリアに大変近い。イタリアのリヴォルノ(トスカーナ州)という町へは、ニースへ行く半分もかからない。そう、ナポレオンが生まれた前年、1768年までは、ここはフランスではなかったのだ。かといって「イタリア領」だったということではなく、そもそも統一イタリアという国家は存在していない当時、都市国家のピサ(13世紀以前)やジェノバの支配下に置かれていた。いまは島第1の都市の地位を、フランス側に面しているアジャクシオに譲っているが、それでも第2の都市であるとともに、オート・コルス(上コルシカ)県の県庁所在地になっている。もっとも人口が急激に膨張したのは、コルシカに観光産業が入って来たここ3〜40年ほどだという。そのあたりの事情はレヌッチ「コルシカ島」(白水社)に詳しい。
 



 

7時半頃から外へ出て、ぶらぶらと歩く。まだシーズン前ではあったが、観光産業がこの町を確実に潤している事は、通りに連なる土産物屋やブランド品のショップからもよくわかる。急な坂を上り、まずはCitadelleにたどり着く。ジェノバ人の要塞都市が残るエリアだ。城門はなぜか、フランスに帰属した当時の、ルイ16世の治世を讃えている。中に入ると、まだ早朝だとはいえ、極めて陰気な気配が漂っている。いる人も、何か警戒心が強そうな表情だ。自分が中世や近代初期に生まれて来なかったことを、心から幸せに思う。リノベートされている建物も多いようだが、人が住んでいる建物とて、埃っぽく黒ずんだ暗い階段が開いた扉の奥にあったりするのを見るにつけ、居住空間として決して良いもののようには思えない。カテドラルの前には、ビクトル・ユーゴーが2年ほど過ごしたという家が残されていた。ミゼラブルだ。
 


 (右手正面奥がユーゴーの旧宅)

城壁に囲まれた狭い空間の中にも、急な細い坂道がひしめく。鴨ちゃんがボスニアで、頭上から少女に石を落とされ殺されそうになったと、「鳥頭紀行」か「できるかな」かに書いてあったが、ここではテラコッタの鉢でも落として、外敵の侵入を阻んでいたに違いない。
 


 

Citadelleからは別の道を通って、古港の方へ降りていく。途中、城塞が出来る前からの一番の旧市街というエリアを通る。そもそも急坂に、かなり高層の建物が立っている。すでに歴史の重みに耐えかねてか、あとからつけたコンクリートの梁で生きながらえている建物もある。間近で見あげると、まだ人が住んでいるのに、ものすごい立体廃墟という印象を受けた。旧港はいまはマリーナになっていて、プレジャーボートやヨットが停泊している。マリーナ沿いの整備された遊歩道に面して感じの良いカフェをみつけ、プチデジュネ・コンプレを注文する。ヨット越しに、さっき通って来た旧市街が見える。こうして見ると、何か独特の美しさがある。九龍城、軍艦島。人々が立体廃墟に引かれるのは、いったい何故なのであろうか。
 

 
 

いま街の中心になっている新市街まで行くと、そこはプチパリ。観光客を意識してか、パリバやクレディアグリコールといった銀行までがお洒落なファサードをあてがわれている。広場でたたずんでいると、花売りがやってきたり(独りなんですけど)、宗教の勧誘らしき人がやってたり(フランス語わかりません)。Non, merci(ノーサンキュー)としか言えないので、すべてそれでやり過ごす。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:旅行・地域(旧テーマ)

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。