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4月30日(2) バスティア〜アジャクシオ  Bastia-Ajaccio [Corsica]

バスティアを起点にコルシカ島北部の諸地域、船からも見たコルシカ岬、カルヴィ・イルルースといった小さな都市、コルシカらしさを残すバラーニュ地方など、簡単に訪れることが出来るならば是非行きたいところではあったが、いずれも公共交通の事情が大変醜い。また、実は困っていた問題がコルシカ島のガイドブック。ジェノバで英語版を入手出来るだろうとタカを括っていたらイタリア語版しか入手出来ず、なんとか格闘するも細かいことがよくわからない。そして今回はコルシカだけでなく、ゴールデンウィークの間にサルデーニャ、それも南部のカリアリまでどんどん下っていかなくてはならない。だからバスティアから、その日のうちに一気にアジャクシオまで南下することにした。

コルシカ鉄道の駅まで歩いて行く。バスティアからはアジャクシオへの本線と、途中から分岐してカルヴィに行く支線が出ているが、もともと小さな駅は人気もなく閑散としている。入り口の脇に貼ってある時刻表を見ていたら、仕事がないのか、それとも働く気がないのかで、街をぶらぶらしているような風体のおじさんに声をかけられる。どうやら何処へ行くのかと聞いているようなので、アジャクシオまで行くと答えた。おじさんのフランス語はさっぱりわからなかったが、「そんな遠く時間がかかるところに行くのか、山の向こうまで大変だな、自分はそんなところまで殆ど行ったことないけどな、まあがんばってな」と言っているような表情だけは読み取れた。
 


 

おんぼろなコルシカ鉄道はいま近代化工事の真っ最中だった。バスティアからは列車が出ていない。途中のCasamozzaというところまで、代行バスに乗せられる。まずはまっすぐ南に向かって海沿いに、それなりに整備された国道を走る。山と並行して、細長い平野が伸びている。大して利用価値もなさそうな草っ原が掘り起こされ、真新しい建物がところどころに立っている。都市が郊外に向けて拡大しているのがよくわかる。何となく、石垣島の現石垣空港のあたり、あるとき訪れたら急にマックスバリューが出来ていた光景を思い出した。山麓には別荘らしき建物がへばりついているのが見える。道沿いには、老人コミュニティのようなコンドミニアムもあった。Marianaというところは、かつてローマ人が拠点を築いた場所なのだが、今では、国道のロータリーの真ん中に、コンクリート製のローマ風の柱のレプリカが安っぽく建てられているようなところだった。そう、さっきからこの道は信号がなく、ロータリーが多い。これがフランス式なのか。Lucianoというところまで来ると、線路と並行に走るようになった。山は近くなってきていたが、ハワイ島、キラウエア火山から南へと下る道、カウ地方のマウナ・ロアの山麓に広がる灌木と草地のような景色にも見えた。

Casamozzaで、鉄道に乗り換える。出てすぐに、線路は山中へと分け入っていった。「怖い」。ガケ、木。トンネル。その他もろもろがすぐ窓の外真横目の前に迫って来る。心もとない橋を渡る。カーブは半径何メートルなのかわからないくらい。曲がっていく先が見える。安っぽいレール音が響く。旧型ディーゼルカーが物々しい音を上げて進む。見れば、エメラルドグリーンの川が下に流れている。
 





上には、ガケにへばりつく村が見える。別荘ではない、コルシカ人の住み処だ。周囲には何ら産業に与しそうな土地はない。何を生業としてきたのか。山が高く、深い。鉄道に乗り換え、海岸線を離れわずか10分もたたぬうちに、どこかの大陸の国立公園のような山中に入っていた。ここは島じゃなかったのか?灌木の林からは、ほのかに芳香が漂っている気がする。ナポレオンが、コルシカの東隣にあるエルバ島(現イタリア領)に流されたとき、風に乗って流れて来たマキの芳香に、さほど離れていない故郷コルシカのことを懐かしんだという伝説があるそうだ。

あるところで、急に徐行になった。ソロソロと、明らかに慎重に走っている。それまで左右水平だったのが、明らかに片側に車両全体が傾く。車内の客全員が事態に気づき、にわかに緊張感が走る。横転した車内の画を想像する。その間どのくらいだったか。しばらくこらえるようにして走ったあと、また水平に戻った。どうやら道床を失っていたようだ。水害で線路が宙にぶらぶらしているニュース映像のような光景を想像して、改めてぞっとする。ゆっくりであれば、走っても良いものなのだろうか。

Ponte-Lecciaはカルヴィ方面への分岐駅。盆地が広がる向こうに、高い山がそびえる。白い雪を抱いている山も見える。今回の旅、温暖な地中海の島々をめぐる旅をしているはずが、すでにこの風景はひとつの島のそれではない。何より、海の存在を忘れさせられる。海があって山があるという世界ではない。山だけの世界。そういう空気を感じる。
  




  

コルテに到着。ここは、ジェノバ時代に独立運動の拠点となった土地であり、コルシカの心のふるさととされている。丘の上に家々が肩を寄せ合うように立ち、町が築かれているのが、駅からも遠目に見える。近年、コルシカ大学がこの町に設立され、過疎の老人の町だったのが一気に若者の姿が目立つ町へと変貌を遂げたという。
 


 

バイカーやハイカーら観光客ばかりだった車内は、コルテで全員が降りてしまった。やはり、バスティアからアジャクシオまで通しで乗るような酔狂な客はいないのかと思っていたら、僕も運転手にたたき出された。ここからはまた代行バスに乗り換えだった。結局、オンボロ鉄道に乗っていたのは、全行程の1/4ほどでしかなかった。
 



 

この先、コルシカ島を2分する山脈のピークへと向かう。かつては「山のこちら側」と「山のあちら側」地方を分かち、現在はバスティアを中心とする「オートコルス(上コルシカ)県」とアジャクシオを中心とする「コルスデュシュドゥ(南コルシカ)県」を分かつ、2000m級の山々が連なる山脈である。山越えをすべく、おんぼろ鉄道から乗り換えたバスは立派であったが、道はまったく立派ではなかった。がけっぷちのぐにゃぐにゃの道を行く。Vanacoという町は、稜線に沿ってひだのように家々がへばりついていた。大きな谷のはるか向こう側にも村が見える。カスタニッチャと呼ばれるエリアであろうか。かなり山の上の方、なぜか等高線に沿うように、同じ高さ一直線に点々といくつか村が見える。天空の村の人々は、平原から栄誉ある孤立を保っていると言えば聞こえもいいが、おそらくこの地方特産の小さな栗(「カスターニャ」)を主食に、長らく厳しい生活を送っていたに違いない。
 


 

ピークのあたりは針葉樹の峠、5月になろうというのに雪を冠した山が間近に見える。さすがにぐにゃぐにゃの道に疲れてしまい、峠を越えたところでうとうとと寝てしまう。ピークからどのくらい降りて来たものか、しばらくすると、これまでと風景とは明らかに違う、豊かな印象の平野に出た。道路と並走する、動いていない鉄道の駅標は、Campo dell'Oroとあった。なるほど。黄金の土地。山ばかりのコルシカにあって、言い得た名前だ。近くに同名の空港もあるようだ。ほどなく、アジャクシオの郊外に入る。ここはバスティア以上に、観光で急膨張した町だという。ワイキキのクヒオ通りのコンドミニアムを更に作り損なったようなコンクリートの建物が林立している。カルフールもあった。
 


 

さらに市街の中心に進む。駅前でバスを降ろされた。そこから歩いて、イタリア語版の(苦笑)ガイドブックで目をつけていたKallisteというホテルへ向かう。清潔でセンスがよく、大変居心地の良いホテルだった。建物は古いのだろうが、その古い石造りの要素をうまくモチーフに取り込み、現代的リノベートされている。おまけにコインランドリーまである。これは素晴らしい。島横断はやはり疲れたのか、ついその快適なベッドの上に横になる。
 

 

しかし、街はなんだか騒然としている。パトカーがサイレンを鳴らして走り回っている。様子を見に外に出てホテルから少し歩いてみると、通りの真ん中で何かが燃やされているのが、路地ごしに遠目に見える。ホテルの前まで戻ると、更に騒然とした雰囲気になっている。部屋に帰って窓越しに様子を見ることにする。デモだ。

まず、機動隊が盾を持ち身構えて、後ろずさりしながら進んでいる。その後ろをデモ隊がやってきた。Liberta! Liberta! フランス語ではない、コルシカ語でシュプレヒコールしている。コルシカの自治や独立に絡んだもののようだ。威嚇のために、わざとビール瓶を投げて割る者もいる。観光地らしく美しく舗装された大通りに、ガラスの破片が無惨に飛び散る。

しかし、ものすごく真剣そうな面持ちの機動隊に対して、デモの参加者は、どう見ても暴力を面白がっているようにしか見えない。参加者の多くは、欲求不満の、いや単に力の余っている若い男子が中心だ。デモにふさわしい、統一された衣装やハチマキみたいなものも、旗さえもない。そのホリエモンばりにラフなTシャツ姿が、ますます思想性のなさを感じさせる。これだけ観光だけで発展している姿を目の当たりにした者にとっては、自由を叫ばれても尾崎豊の「卒業」と同じくらいに空虚に聞こえてしまう。余計なお世話か。

= omake =


デモのポスター。フランス人のおそらく権力者(袖にトリコロールが入っている)がコルシカ人(ムーア人がそのシンボル)をハンマーで叩いている絵が描かれている。フランス語よりもイタリア語(トスカーナ語)と近接な、コルシカ語で書かれている。アジャクシオ(AJACCIO)はアヤーッチュ(AIACCIU)になっている。uとaは定冠詞(le/il, laに相当)。そこはポルトガル語っぽい。


ホテルにあった映画のプログラム。"JAPANESE STORY"って何?隣はキルビルだし。
 


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